さまざまな車種で採用されるようになった自動ブレーキ。
これは今や自動車業界の世界的なトレンドです。
安全技術で高い評価を受ける日産がほこるミニバン、セレナに搭載される自動ブレーキはどのようなものなのでしょうか。
仕組み・評価・他車との比較に加え、一部で性能が悪いと言われる点についても、誤作動・事故の例から調べてみました。
セレナ自動ブレーキの仕組みと性能
まずはセレナに搭載されている自動ブレーキの仕組みについてご紹介します。
次にセレナの自動ブレーキについて具体的な数字を交えた解説。
最後に自動ブレーキの性能を測るポイントについてみていきます。
セレナ エマージェンシーブレーキの仕組み
日産セレナに搭載されている自動ブレーキは「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」。
以下、エマージェンシーブレーキと表記(あるいは自動ブレーキと表現)。
エマージェンシーブレーキは、セレナのフロントカメラで前方の車両や歩行者を検知するシステムです。
衝突の可能性が高まると、メーター内ディスプレイへの警告表示・ブザーでドライバーに危険を知らせます。
ドライバーが安全に減速できない場合は自動で緊急ブレーキを作動させます。
このようにエマージェンシーブレーキは危険を事前に察知して衝突を回避し、被害を軽減する仕組みです。
単眼カメラ方式による自動ブレーキであり、映像処理の向上と同時に低コスト化を実現しています。
新型セレナ(C27)全車で標準装備です。
セレナ 自動ブレーキの性能
セレナの自動ブレーキは60〜70m先の物体を認識します。
かなり前方のクルマ・人を検知していることになるので、安心感をもって運転できるのは嬉しいところです。
大人だけでなく小学生程度の子どもでも認識します。
〜80㎞/hの範囲で自動ブレーキが作動可能です。
一般道を走行するスピードではほとんどの場合、自動ブレーキが作動可能ということになります。
そして〜30㎞/hであれば衝突を回避できるとしています。
60㎞/h以上で走行している場合は停止車両や歩行者に作動しない仕組みになっています。
いつ何時も自動ブレーキが作動するとなるとかえって危険ですからね。
自動ブレーキの性能について
自動ブレーキの性能を考えるときに見るべきポイントは以下の4つがあります。
これは後に述べる性能比較のところでも出てきます。
- 自動ブレーキ作動速度
- 衝突回避支援
- 歩行者検知
- 誤発進抑制
セレナの場合だと、①・②は先に述べたとおりでそれぞれ〜80㎞/h、〜30㎞/hですね。
③歩行者検知もセレナは装備しています。
④誤発進抑制についても、セレナには「踏み間違い衝突防止アシスト」がメーカーオプションで設定されています。
セレナの自動ブレーキは、次にみていくように概して評価が高いです。
セレナ 自動ブレーキの評価
日産は安全への取り組みを重要課題と位置づけ「Vision ZERO」をかかげます。
自動車の安全性を評価する「自動車アセスメント(JNCAP)」でも高い評価を受けています。
日産の安全への取り組み
日産の「Vision ZERO」とは、2015年までに同社の製造する車両に関わる国内の死亡・重傷者数を1995年から半減させ、最終的には実質ゼロを目指すプロジェクトのこと。
この目標を2015年に達成しています。
次は2020年までに、死亡・重傷者数を2015年よりさらに半減させ、1995年比で4分の1にまで減らす取り組みを継続しています。
具体的には、エマージェンシーブレーキの標準化に加え、ディスタンスコントロールアシスト(前方車との急速な接近に対してアクセルペダルを押し戻す)、前方衝突予測警報(ミリ波レーダーを利用して2台先の車両挙動を察知する)など新技術を積極的に投入していく予定です。
セレナに搭載される日産自動ブレーキの評価
日産の自動ブレーキであるエマージェンシーブレーキは、セレナをはじめリーフ・ノート・エクストレイル・ジュークなど、多くの日産車で搭載されています。
2016年、自動車アセスメント(JNCAP)の衝突安全性能評価では、自動ブレーキ(被害軽減ブレーキ)の項目が以下のような結果でした。
対車両:32点満点
対歩行者:25点満点
自動ブレーキ以外の他の項目では次のような結果でした。
はみ出し警報:8点満点
後方視界情報:6点満点
71点満点で71点という最高評価「ASV++(ダブルプラス)」を獲得しています。
JNCAPの実施主体は国土交通省が所管する独立行政法人・自動車事故対策機構です。
このような組織が与えている評価なので信頼性は高い。
はずなのですが、誤作動・事故例も報告されています。
セレナ 自動ブレーキの性能は悪いのか?
セレナの自動ブレーキは、実は性能が悪い?
高い評価を受けているセレナの自動ブレーキですが、誤作動や事故の例もないわけではありません。
セレナ 自動ブレーキの誤作動例
セレナe-POWER2018年モデルの誤作動例です。
天候は雨、時刻は夕方、ドライバーは30㎞/hで走行していました。
前方を走るクルマや周囲に障害物がなかったにもかかわらず、急に警告音が鳴り、エマージェンシーブレーキが作動しました。
このケースは〜30㎞/hとエマージェンシーブレーキの衝突回避支援が作動するスピードでしたが、衝突の危険性がないにもかかわらず作動しています。
このような誤作動を起こして予期せず突然ブレーキがかかると追突事故につながりかねません。
次は事故の例ですが、本ケースと共通点がみえてきます。
セレナ 自動ブレーキの事故例
出典:PhotoAC
「自動ブレーキ作動せず事故 日産販売店長ら書類送検 千葉県警、全国初」
このような見出しで2017年4月14日、千葉日報オンラインに掲載されたニュース記事からです。
簡単に説明しますと、セレナの試乗をしていた客が、同乗していた日産の販売店店長と営業社員に指示され、ブレーキペダルを踏むべきところをエマージェンシーブレーキを試すためにあえて踏まず、事故を起こしたというケースです。
なんとも情けない話といえばそうなのですが、このときの状況から見えてくるものもあります。
エマージェンシーブレーキが作動しなかったときの状況
出典:PhotoAC
客はクルーズコントロールを40㎞/hに設定して一定の速度で走行していました。
「本来はここでブレーキですが、踏むのを我慢してください」と指示され、ブレーキを踏まなかったところエマージェンシーブレーキが作動せず、信号待ちしていた前方車に衝突しました。
このときの天候は雨で、時間帯は夜間、前方車は黒色のクルマでした。
これはさきのセレナe-POWERでの誤作動例と状況が似ています。
雨振り、日が沈む時間帯。
本事故例ではさらに前方のクルマも暗い色。
これらの条件が重なるとセレナの単眼カメラは物体を検知しづらくなることがあると言えますね。
自動ブレーキを過信せず正しく理解する
今回の例のように自動ブレーキを過信することはもちろんよくない。
またクルーズコントロールという速度を一定に保てる機能を利用し40㎞/hに設定していたそうですが、セレナの衝突回避支援は〜30㎞/hです。
これは過信というより理解不足です。
エマージェンシーブレーキの性能側だけでなく運転する人間側の要因によっても「誤作動」と事故が起こりうるということですね。
自動ブレーキの他車ミニバン比較
最後に、セレナのライバルであるミニバン、トヨタ・ヴォクシーとホンダ・ステップワゴンの自動ブレーキ性能についても簡単に触れておきましょう。
トヨタ ヴォクシーの自動ブレーキ性能
出典:トヨタヴォクシーサイト
トヨタ・ヴォクシーは「Toyota Safety Sense(トヨタ・セーフティ・センス)」という自動ブレーキシステムを採用しています。
自動ブレーキといってもその方式は様々です。
セレナは単眼カメラによるものでしたが、ヴォクシーではカメラとミリ波レーダーを併用するハイブリッドなシステムになっています。
自動ブレーキの性能は以下のようになります。
- 自動ブレーキ作動速度:〜80㎞
- 衝突回避支援:~30km/h
- 歩行者検知:なし
- 誤発進抑制:なし
自動ブレーキ作動速度・衝突回避支援がセレナと同等、歩行者検知・誤発進抑制はヴォクシーには搭載されていません。
ホンダ ステップワゴンの自動ブレーキ性能
出典:ホンダステップワゴンサイト
ホンダ・ステップワゴンは「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を採用。
衝突回避機能などを統合的に備えた安全運転支援システムのパッケージです。
自動ブレーキの性能はどのようになっているでしょう。
- 自動ブレーキ作動速度:〜80㎞
- 衝突回避支援:自車との速度差〜5㎞
- 歩行者検知:あり
- 誤発進抑制:あり
衝突回避支援に上限が一見ないようですが、実際どうなのでしょう。
ステップワゴンはヴォクシーにない歩行者検知・誤発進抑制があるので、3車種で比べたとき自動ブレーキ性能はセレナと同等、あるいは衝突回避支援の性能からそれより高いようにも見えます。
ただしセレナの場合、「踏み間違い衝突防止アシスト」では前進時だけでなく、後退時にも衝突回避を支援します。
ステップワゴンの誤発進抑制は前進時のみです。
ヴォクシーもステップワゴンもセレナも、どれが最も優れているとは単純に言えないですが、それぞれ独自のシステムを開発し自動ブレーキなど安全装備の搭載に力を入れています。
ミニバンは家族を乗せる機会が多いものですから、このような安全装備はユーザーにとって最も重視したいポイントの一つです。
セレナ自動ブレーキの性能まとめ
自動ブレーキの搭載は世界的な流れです。
自動運転が実用化されようとしている時代ですから当然とも言えそうです。
セレナが採用する自動ブレーキは「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」。
単眼カメラにより危険を事前に検知します。
その性能は他のミニバンと比べても高いもので、自動車アセスメント(JNCAP)の衝突安全性能評価は最高を獲得。
しかし、一部では誤作動・事故の例もあります。
その条件は似通っていて、雨降り・視界が暗くなる夜間などの時間帯という条件がそろっていることが多いようです。
事故の例で顕著に言えるように、自動ブレーキといっても過信することは絶対にやめましょう。
同システムの搭載により意識が低下し、事故の危険が高まってしまうことほど本末転倒なことはありません。
自動ブレーキやプロパイロットなど先進安全装備で人気のセレナでも、安全の基本はドライバーの注意に他なりません。
このことを改めて確認しましょう。
同時に、日産のさらなる安全装備への取り組みに期待したいと思います。
それでは最後までお読みくださりありがとうございました。
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✳︎出典を表記していない画像はすべて日産セレナサイトからの引用